Wednesday, February 8, 2017

番外 読書「刑」

歴史的なアフリカン・アメリカンの学校校舎に五人の少年が人種差別的、反ユダヤ的、そして猥褻な落書きをして捕まった。彼らに対する判決がヴァージニア州の裁判所で下された。裁判官は五人の少年に三十五冊の本を読み、十四の映画を見、二つの博物館を訪ね、「性、人種、宗教、偏見への理解を深めるために」レポートを一本書くように命じた。

検察のひとりの女性は司書の娘で、なにも知らないバカな少年たちを教育するにはいい機会であると、このような「刑」を求めたのだった。

ガーディアン紙の記事によると、読書を義務づける判決が出たのはこれが最初ではないそうである。去年の九月、イタリアで、売春をはたらいていた十五歳の少女が三十冊のフェミニズム関係の本を読まされることになった。ところがどういうわけか、この少女を買ってセックスをしようとした三十五歳の男にはただ二年間の禁固刑が下っただけだった。

私はこの記事を読んで二つのことを考えた。

Librería de lance en México DF.jpg
By Eneas De Troya from Mexico City, México - Lectura para unas vidas, CC BY 2.0, Link


まず第一に読書を「刑」に含めることは非常によい。もっとこのような判決が増えることを期待する。強制的な読書というのは苦痛であり、受刑者に砂を噛むような思いを味わわせるだけになるのかもしれない。そしてその結果いっそう偏見に凝り固まることになるのかもしれない。けれどもその一方で何人かは砂のなかにキラリと光る金を見つけ、それが心になにかを植えつけ、彼らを変えていくかもしれない。どちらの目が出るかはわからないが、とにかく教育の機会を与えることはすばらしいことである。ただ罰するための刑は受刑者を変えることはないだろう。

読書「刑」が増えて、新聞にもその「強制的」読書リストが公表されるようになれば、一般人も興味を惹かれて本を読むようになるかもしれない。自分が知らない「名著」を囚人が読んでいる、となると、勉強熱心な人なら読書の意欲をかき立てられるはずである。また読書リストに対して議論が湧き起こるかもしれない。この本よりもあの本のほうが興味深いし、テーマを深く掘り下げている、などといった具合に。犯罪から文化が生まれるなら、こんなに喜ばしいことはない。

もう一つ考えたことがある。それはイタリアの売春婦には読書が課せられたが、客の大人のほうにはそれがなかったという点にかかわる。なぜ大人には読ませないのか。子供はまだ知識が足りないが、大人には充分な分別が備わっている、あるいは大人はもう教育の余地がないとでも考えているのだろうか。永山則夫の例もあるように、大人だって教育を受けることは大切である。かりに受刑者が大学教授であってもだ。

司法と教育がこのように合致することに不安がないわけではない。たとえば国家が極端に内向き・保守化して、司法が受刑者に差別的書籍を強制的に読ませるようになったらどうなるだろうか。あるいは政府のイデオロギーに合致した書籍ばかりを読ませるようになったとしたら。わたしはそれでもかまわないと思う。読書、書籍というものは不思議なもので、どんなものも思考を鍛錬する。イデオロギーの別を問わず、すぐれたものほど思考を多面化し、複雑化する。

さて今回ヴァージニアの裁判所が五人の少年に読むことを課した三十五冊の本は次の通りである。

1. The Color Purple by Alice Walker
2. Native Son by Richard Wright
3. Exodus by Leon Uris
4. Mitla 18 by Leon Uris
5. Trinity by Leon Uris
6. My Name Is Asher Lev by Chaim Potok
7. The Chosen by Chaim Potok
8. The Sun Also Rises by Ernest Hemingway
9. Night by Elie Wiesel
10. The Crucible by Arthur Miller
11. The Kite Runner by Khaled Hosseini
12. A Thousand Splendid Suns by Khaled Hosseini
13. Things Falls Apart by Chinua Achebe
14. The Handmaid’s Tale by Margaret Atwood
15. To Kill a Mockingbird by Harper Lee
16. I Know Why the Caged Bird Sings by Maya Angelou
17. The Immortal Life of Henrietta Lacks by Rebecca Skloot
18. Caleb’s Crossing by Geraldine Brooks
19. Tortilla Curtain by TC Boyle
20. The Bluest Eye by Toni Morrison
21. A Hope in the Unseen by Ron Suskind
22. Down These Mean Streets by Piri Thomas
23. Black Boy by Richard Wright
24. The Beautiful Struggle by Ta-Nehisi Coates
25. Eichmann in Jerusalem by Hannah Arendt
26. The Underground Railroad by Colson Whitehead
27. Reading Lolita in Tehran by Azar Nafisi
28. The Rape of Nanking by Iris Chang
29. Infidel by Ayaan Hirsi Ali
30. The Orphan Master’s Son by Adam Johnson
31. The Help by Kathryn Stockett
32. Cry the Beloved Country by Alan Paton
33. Too Late the Phalarope by Alan Paton
34. A Dry White Season by Andre Brink
35. Ghost Soldiers by Hampton Sides