
アメリカの大統領も休暇中に読書をする。いつごろからやっているのかかわからないが、ホワイトハウスは休暇がはじまる前に、大統領の読書リストを発表している。2016年の夏休みにオバマ大統領が読もうとした本はつぎの五冊だ。
"Barbarian Days: A Surfing Life" by William Finnegan
"The Underground Railroad" by Colson Whitehead
"H Is for Hawk" by Helen Macdonald
"The Girl on the Train" by Paula Hawkins
"Seveneves" by Neal Stephenson
SFあり、ミステリあり、ノンフィクションありでなかなか楽しめそうだ。とくにホワイトヘッドの新作が含ま
れているところがいい。この本は私も夢中になって読んだ。大統領はどんな感想をいだいたのだろうか。
ひるがえって日本の首相が夏休み中になにをしていたかというと……新聞を読む限りゴルフ三昧である。ここに彼我の指導者の、教養の差があらわれている。
しかしホワイトハウスははたして来年も大統領の読書リストを発表するだろうか。なにしろトランプという男は本を通読したことがないという話だから。

このことは啓蒙の伝統を受け継ぎ、正義と公平を訴え、公立大学の授業料無償化のように教育の大切さを訴えたバーニー・サンダースが大統領候補から蹴落とされてしまったことにもあらわれている。クリントンとトランプは見た目ほど差がないと私は思う。どちらも資本主義のエンジンをふかすことにしか興味がないのである。クリントンはグローバル企業と強く結びついているし、トランプだって資本家だ。「クリントン・トランプ」vs「バーニー・サンダース」、これが本当の対立図式だったのだが、それを民主党自身がつぶしてしまった。リベラルの絶望的な状況がここにあらわれている。トランプが大統領になったことよりも、バーニー・サンダースが民主党の候補にならなかったことのほうが私には衝撃だった。
バーニー・サンダースが大統領になっていたなら、ホワイトハウスは夏休み前にどんな読書リストを発表していただろうか。われわれは貴重なリストを失ってしまった。